- 作者: 大森望,日下三蔵
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2011/07/27
- メディア: 文庫
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読み終わるのにずいぶん時間がかかってしまいましたが、今年もまた日本SFの旬のものをいただきました。ごちそうさまです。
長寿が可能となった、現実と地続きの世界で長寿者(メトセラ)のその親の視点から描いた作品。子どもを持ったことはないけど、自分が死んだ後も子どもは生き続けるってよく考えたら切ないなあと思います。愛してたことを忘れないでね、っていうごくごく私的な気持ちと、自分の存在しない遠い未来へメッセージを残すという壮大さがリンクしていて面白かったです。作中のメトセラを妊娠した女性の行動とか、冲方さんの作品はこういう女性の言語化できない思考を上手くすくい上げてて興味深いですね。
- アリスマ王の愛した魔物(小川一水)
だいぶ前に戸籍の登録ミスで130歳以上の人が存在したことになっていた、なんてニュースを見ていて人間って単純な集計であっても、大きな数字を正しく扱うことは出来ないんじゃないかなと思いました。たぶん万単位くらいが限界のような気がします。その一方で、小学生の時にそろばんを習っていたんですが、今思うとあれって手の中で数が動く感覚をすごく体感できるものだったと思うんですよね。なんてことを考えながら読みました。こういう昔語りはすきです。
- 完全なる脳髄(上田早夕里)
こういう無個性というか、無感動な個体が自分自身のものを獲得して行く物語がすごく好きです。前半の意識がほとんどないような、それでいて無意識でもない状態のぼんやりした感覚から、一気に「人間らしく」なっていく、それがどこまでも普遍的な事柄なのにすごく鮮やかに思える展開が面白かったです。まるでハードボイルド映画のようなエンディングがすごくかっこ良かったですね。
- 五色の舟(津原泰水)
異形の者たちの、彼ら自身の選択と幸せへの旅の物語。普通ではない者の視点で描かれる風景がとてものどかで楽しくて面白かったですね。
- 成人式(白井弓子)
毎回この年刊に乗る漫画は質が高いので期待しているのですが裏切らなかったですね。成人する為に旅に出る異世界の少女の物語という主軸の背景に、壮大な世界と時間を旅することで人にもたらされるもの、そして奪われるもの(それは老いとも成長とも呼ぶもの)を丁寧に描いていて素敵でした。
- 機龍警察 火宅(月村了衛)
この短編自体はSFというよりもミステリーでしたが、日本の警察組織に傭兵部隊があったり、さらに有人ロボットらしい兵器がちらちらと登場して、すごく気になる内容でした。ちょっとこれ本編読みたいなあ。
- 光の栞(瀬名秀明)
「本が歌う」というと詩的でロマンチックな感じがしますが、音楽という途切れることのない音の並びが続いている時間を綴じ込んでおくもの、という風に解釈しました。ちょっと難しいなと思ったけど、生命と本という不思議な取り合わせに味わいがあって素敵でした。
- エデン逆行(円城 塔)
えーと、言葉というものを定義と意味にすぱっと切り分けて、定義をぱぱぱっと混ぜ合わせて矛盾がないように並べ替えてみたら、なんだか面白い「意味」が出てきました。始まりの二人から始まったはずの世界が、そっちに向かって逆行してる。でもそれを「逆行」と言える定点はなさそうな気がします。
- ゼロ年代の臨界点(伴名 練)
2000年代の10年をゼロ年代と言いますが、って、そっちのゼロ年代かい!年代批評という俯瞰図の箱庭にすごく魅力的な才能ある少女たちが遊んでて面白かったです。ゼロ年代についてはよくわからないです。
こういう建設もののミステリーって本当にありそうで好きです。(小川一水さんの第六大陸もいつか読みたい)機械が収集したデータには浮かび上がって来ないものを、人間の勘だけがキャッチするってなんか良いですよね。
- アリスへの決別(山本 弘)
この短編のアリスはいわゆる「非実在青少年」なのですが、たまにえろいことを考えたりした後に、この私の頭の中でえろいことをしていた(されていた)実在しない人たちはここから永遠に出られないんだ、と思うとなんだかすごく申し訳ない気分になったりします。が、むしろ出ない方がいいのでしょう。まあ出ても出なくても、規制される時はされてしまうのですが。
- allo, toi,toi(長谷敏司)
脳ってどこまでいじれるのかなあと思います。そしてそうやっていじった脳の意識をどこまで人間は容認できるのでしょう。ん?容認する主体が変わって行くからそんなのは結局分からないか。
- じきに、こけるよ(眉村 卓)
老いた大学教授の少し不思議な日々。たぶん人間が老いながら積み重ねて行く諦めの境地を描いていると思うのですが、私にはゆるゆるした不思議な日常が読んでてなんだか心地良かったです。ま、いいよね。どうでも。
- 皆勤の徒(西島伝法)
おおおすごい。なんだこれ、分かるようで分からない。面白いような気もするし、切ないような気もするんだけど、大質量のイメージがどかどかどかっとやって来て頭の中に勝手にごんごん建てて行く先からがんがんぶっ壊れて行く、そんな感じでした。これはもうちょっと短い方がいいなあ。言葉遊びの部分はイメージしやすくて楽しいけど、その他の部分がちょっと濃くてすぐお腹いっぱいになってしまいました。名刺が飛び交う営業のシーンとかダイナミックで面白かったです。