J.エドガー

FBI初代長官として初めて科学捜査を取り入れ、また盗聴によって大統領よりも優位な立場を築いた一人の男の物語。

システムの話だと思うんですよ。冒頭の、図書館で分類(カテゴリー)と索引(インデックス)を使って目当ての本を探し出し、それを犯罪捜査に取り入れることを説明する主人公エドガーの頭の中には、明確で単純なシステム構成図があったと思います。膨大な情報の集積(データベース)とその膨大な情報の中から一つの重要なものを見つけるための方法(メソッド)。それにはプライバシーなど関係なく冷徹でとことん合理的な態度で在らねばならない。着想したアイデアを実装するために必要なものを、彼は敵視していた共産主義から学んでいたのではないかと思います。ただしそれは経済ではなく、情報の「共産化」として。下層の犯罪者から大統領まで平等にくまなく情報を収集する。そしてそれを公共の利益に役立てる。このアイデアの着想と実装方法を得たエドガーは、己の理想に次第に酔いしれていく。その様子は、あたかも共産主義の夢物語を信じて疑わない独裁者と酷似しているように見えます。ただ彼が一つだけ違うとすれば、彼の採った方法がそれなりに機能したばかりか現代の科学捜査の基礎になり得たということ。科学的な基盤を元にしたメソッドと、盗聴によるシステム基盤(ストラクチャ)の保持。この物語は前者のメソッドだけを残し、ストラクチャは彼の人生と共に破棄(ディスポーズ)されます。一人の人間のライフサイクルを共にするシステムの物語。この時代の、この人物だからこその物語じゃないかなと思います。

そういえば、だいぶ前に観た「パブリック・エネミーズ」の犯罪者デリンジャーと捜査官パーヴィスがちらっと話に登場していて、あああれのFBI側の話かあと思い出しました。ジョニー・デップデリンジャー)と、クリスチャン・ベール(パーヴィス)が出演していたのよね。それとエドガーの相棒役のトルソンは、「ソーシャルネットワーク」のいけすかない双子の金持ちの人だね。
ジュディ・デンチの泥沼の深い母性が素晴らしかったです。エドガーの性癖を方向付ける無償の強さと、ナオミ・ワッツの秘書役の女性の強靭なサポート力がエドガーの行動の外殻をがっちりと固めていて、実はこの映画を本当に導いているのはこの二人なんじゃないかなと思いましたね。