タイム

遺伝子操作によって老化を完全に抑制した一方、25歳以降の「時間」が売買され均衡が保たれる世界。スラムに住むウィルは、その日を生きながらえるだけ時間を稼ぐのが精一杯の貧困層の住人だった。十年、百年単位で時間がある裕福層は夢のような暮らし。そんなある日ウィルはスラムのバーで百年の時間を持つ裕福な人物を助ける。そんな彼から世界の真実と時間を与えられたウィルは行動を起こす。

不老不死が実現したら世界に人が溢れてしまう。不老不死社会には膨大な人間を淘汰するためのシステムが必要なんですよね。効率よくあるていど制御可能で実績があればなお良し。それにぴったりだったのが経済というシステムだった。
時間を貨幣に置き換えることで見えてくるものがこの映画の醍醐味だと思うのですがなんだかちょっと物足りない感じでした。例えばこの時間を水に置き換えてみたら。水だって人が生きて行くには必要だし、目に見える重さという単位がはっきりしていて置き換えることは可能だと思うんですよね。25歳以降の水は各自買って下さいってなったら、なかなか大変だと思うんですよね。まあ水がなくなったからって急には死なないけど。逆にそういう意味では「時間切れ」という演出はすごくうまく出来ていて、例えば貧困層の人間は足が早いとか急いでご飯を食べるとか、細かいところまできちんと描かれていて面白かったですね。

この物語で時間が貨幣に置き換わらなければならない必然性はただ一つ、不老不死によって人類に与えられた無尽蔵な時間に、再び価値を与えるためだけだと思うんですよね。不老不死社会のための新しい秩序として。そうするとこの映画の結末は、その秩序の破壊に他ならないわけですよね。え、ちょっとこの映画誤解してたけど、もしかしてこれは救済ではなく、カタストロフィの始まりでこの後彼らに待ち受けているのは、人が死ねない悪夢のような社会でしかないんじゃないか。うわ、そう考えたら俄然この映画の評価上がってきたわ。

物語の主軸は、社会格差のある男性と女性のロマンスで、スラム出身のタフな主人公をジャスティン・ティンバーレイク(ウィル)、セレブのお嬢様をアマンダ・セイフライド(シルビア)という超美男美女カップルでロマンス要素は申し分ありませんでした。アマンダ・セイフライドは初めて観たけど、美しさの中にすごく強い芯のようなものがあって素敵でしたね。目が大きいよね。でも私はこの素敵カップルの刹那的な逃避行よりも、むしろ時間監視者(タイムキーパー)のレオンが一番ぐっときましたね。映画「インセプション」(なぜか映画紹介では「ダークナイト」が多いんだけど)の若社長を演じたキリアン・マーフィー。欧米人的な重たげな目蓋と彫りの深さが印象的ですね。このレオンという人物は、ずっとウィルとシルビアがぶっ壊そうとしている秩序を頑に守り続けて来た。「私は時間を守る」という言葉に彼の信念が凝縮されていると思うんですよね。彼には善も悪もない。ただ時間で支えられている秩序を守る、そしてあたかも彼がその秩序自身であるかのように振る舞う。システムが人を規定する。役割を演じきるというぶれのない忠実さがすごく良かったですね。だから物語上ああなるのはしょうがないとしても、もうちょっとカッコいい演出にして欲しかったな…。あれじゃあただのおまぬけさんだよ…。