裏切りのサーカス

英国諜報部<サーカス>の古株、スマイリーは相棒の<コントロール>と共に長年勤め上げた諜報部を退職した。引退も束の間スマイリーは再びサーカスに呼び戻される。そこで彼は長年敵国ソ連から送り込まれた二重スパイ<もぐら>を探し出すように指示される。<もぐら>は、<サーカス>の主要幹部、鍵掛け屋<ティンカー>、仕立て屋<テイラー>、兵隊<ソルジャー>、プアマン<貧乏人>の中にいる。かつての同僚を敵視しなければならない過酷な状況の中、スマイリーは静かに任務に着手する。

007などの派手で豪華な娯楽作品とは真逆の、リアリティの追求に主眼がおかれている静かでストイックな映画でした。最初から説明的な台詞や字幕、ナレーションが一切排除されていて、登場人物の台詞だけではなく画面や登場人物の仕草や、背景なんかも観てないとあっという間に置いて行かれる読みながら観る映画で、ストーリーラインを追うのがけっこう大変でした。序盤はかなり置いて行かれた…。
主題は二重スパイ(素敵な響き)の捜索で、お話は画面の中にヒントを残しながらミステリー仕掛けで進んで行くのですが、一方で恋愛ものでもあると思いました。

スマイリーは若い頃敵国のスパイに妻アンからの贈り物であるライターを手渡しているんですね。諜報員という仕事柄、スマイリーはあまり仕事の苦労や困難さを妻に打ち明けることはできなかったと思います。理解して欲しいけど話すことが出来なくて、二人の関係はあまりうまく行っていなかった。妻からプレゼントされたライターというのは、愛情の象徴でもあるんですね。ちなみにアンは映画中一度も姿を見せません。(ちらちら出てるけど顔は見えない)このライターという愛情の象徴は、妻との関係を示す唯一のもので、よりによってスマイリーはそれを敵に渡してしまう。それが巡り巡って今回のこの事件の手がかりとなるのですが、スマイリーにとっては愛情の象徴を取り戻す、妻との関係を戻す、という物語にもなっているんじゃないかと思いました。

この静かな映画の中で素敵だったのはなんといってもびしっときめたスーツに身を固めた男性たちでした。うわああやっぱりきちんとフィットしたスーツは男性の最強装備だよー。この衣装、あのポール・スミスが手がけてるとか。ポール・スミスっていうとレインボーカラーの遊び心が素敵なブランドですが、今回はブランドとは関係なく個人的に参画したとのこと。まあ劇中にレインボーカラーの入る隙が全くない、かなり(絵的に)暗い映画でしたが、その暗さをさらにぐっと引き締めるダークスーツは本当に惚れ惚れするほど素敵でした。