風ノ旅ビト

PS3オンラインストアで購入しました。

見渡す限り広がる砂。その向こうには二つに割れた山頂を持つ高い山が聳える。今、その山頂から一つの光が生まれ空を駆け、一陣の風となって砂の上に舞い降りた。

ゲームで物語を描くこと、というのをずっと考えて来ました。それはゲームに登場するキャラクターたちがデモやイベントシーンで会話をしたり、アクションをしたりしてストーリーを展開させることではありません。イベントシーンのアクションがある程度プレイヤーに委ねられている場合もありますが、それはゲームデザイナーが綿密に計算して配置した、映画的なシーンです。ゲームの中に映画的な手法が取り入れられていることは特別なことではありません。むしろゲームは映画という表現形式の上に重ねてあると言ってもいいんじゃないかと思います。ゲームが生まれた当初はとても映画のような表現にはほど遠いものでしたが、ゲームデザイナーたちは映画的であること、映画並みの表現を持つことを自然と目指していたんじゃないかと思います。今では映画ゲーと言うとデモシーンがやたら長くて、ゲーム本来の楽しさが削がれてしまうようなものを皮肉ってそう呼んだりしますが、それはもともとゲームが先に発展して来た視覚表現である映画を倣ってきた結果なのかもしれません。

でもゲームは映画ではありません。ゲームは映画のように、ストーリーを展開させるタイミングを作り手の監督下に置くことができません。また重要な場面のどこを切り取るか、どこを注視させるかということを厳密に支配することはできません。映画はこの時間と空間を完全に支配する表現ですが、ゲームはそうではありません。ゲームが支配するのは、その作り手のゲームデザイン、そのゲームの世界そのもの、もう少し具体的に言うと物理です。*1
物理と言っても難しいことではくて、そのゲーム内に存在する重力、法則とかそういったものです。ちなみに物理エンジンの話ではありません。例えば、コントローラーのスティックを倒した時にどれだけのスピードでキャラクターが移動するか、どれくらいのタイミングでボタンを押せばアクションが発動するか、そしてそのアクションがそのキャラクターを取り囲む背景世界にどんな影響(ブロックが壊れるなど)があるか、そういう一貫したゲーム内のルール。それがゲームを支配するものだと思うんですね。

映画は映像をある時間軸に並べて物語の時制を生み出し、映像の中に物語を貫く文脈を表すアイテムを配置することで、物語の流れを生み出します。ではゲームはどうやって物語を生み出すのか。もちろん、映画的な手法はすでに映画というジャンルで確立されているので、これを取り入れるのは容易とまではいかないけど無理ではないはずです。でもそれでは映画ゲーになってしまう。そうすると本当にゲームで物語を描くにはどうすればいいでしょうか。ゲームと映画の違いは。

物理で物語を描く、ということ。ゲーム内のルールで物語を語ること。プレイヤーはゲーム内のキャラクターを操作することで、その世界に影響を及ぼします。そしてその世界はまたキャラクターに影響を与えます。ゲームは物や事に干渉することで物語を生み出します。歩くと、目の前の世界が開ける。それは文字や映像のように分かりやすいものではありません。そこには風が吹く、砂が流れる、光が輝く、と言った物理的な現象が視覚的、聴覚的に表されていて、プレイヤーはそれを読み取りながら行動を選択します。世界と関わりあいながら物語を自ら引き出して行く、ということがゲームでは可能なのだと思います。

そういう意味ではこの作品は映画的な手法以外でゲームで物語を描く、ということに成功しているゲームだと思うんですね。プレイヤーは視覚的にも聴覚的にも言葉のない世界で、それでもキャラクターの一つの旅路を、ひいてはその物語世界を旅することができる。そしてそこで得た物語というのは、それまでプレイヤー自身が、選択しまたは廃棄したもので出来ているはずです。すごい。ゲームはこんなことまで表現できるんだ、と感心しました。

また一方でこのゲームはランダムに選ばれたパートナーと共に旅をすることもできます。言葉ではなく、音のサインで意思を通わせながら一緒に世界を旅するんですね。でも旅が終わったらそれっきり。まさに一期一会。確かにその旅で得るもの捨てるものは個々で異なるけど、重なり合う部分も確かに合って、それが積み重なって背景の朽ち果てて行く構造物や、ステージ間で流れるデモのタペストリーの物語にも重なって行くんじゃないかなと思いました。

最初このシステムが分からなくて、パートナーのことをゲーム側のサポートキャラかなんかだと思っていたら実際に向こう側に人が居るんだと知ってすごくびっくりしました。図らずもオンラインデビューになってしまったけど、こういうのならいいかも。

*1:ただすべてのゲームが物理的な世界を持っているわけではなくて、例えばノベルゲームには走ったりジャンプしたりといったアクション要素がない。ノベルゲームは小説特有の世界像をゲームの形式に変換しているのかも