天冥の標6 宿怨 Part2

天冥の標6 宿怨 PART 2 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標6 宿怨 PART 2 (ハヤカワ文庫JA)


冥王斑の患者と回復者からなる救世群<プラクティス>の議長の娘、イサリはスカイシー3で非感染者の少年アイネイアと出会う。アイネイアは太陽系を統一するロイズ非分極保険社団の社長ジェズベルの息子だった。社会的にロイズはプラクティスへの抑圧を推し進め、プラクティスの反感を買ってはいたが、イサリとアイネイアは互いに友人として認め合う。奇妙な因果から秘密裏に行われた異星の知的生命体とのファーストコンタクトを果たした救世群<プラクティス>は、人類の知識を遥かに越えた知的生命体の助力を得て、長年彼らを抑圧してきたロイズへ宣戦布告する。しかしイサリはアイネイアとの出会いから、戦いを回避する平和的な解放を望んでいたが、事態は思わぬ方向へと走り出してしまう。

だんだんと混乱して来ました(笑)読んでいると、この6巻だけの話じゃなくて他の巻との関連とかいろいろ考えてしまって、もうなんか収集がつかないのです。なんていうかすごいタイムスパンで大風呂敷が広がってて、自分の座標見失ってる感じ。やばい。でもこんな壮大で大きな物語を追いかけて読むことが出来るのは本当に楽しいです。

以下ネタバレ。








パート1の最後でようやく到着した静穏者<カルミアン>の生態がすごく面白いんですよ。生命体なんだけどその思考方法は並列コンピュータのようで、そりゃあ人類の知識なんかじゃとても追いつかないわー。5巻のダダーのノルルスカインやミスチフの生態とも違う、ここに来て第三の知的生命体の登場となって、「あれ?天と冥と、あと1こなんなんだ?」って混乱してしまいました。このカルミアンは、パート1の石工<メイスン>に該当するのかなあ。まあそれについては追々明らかになって行くんでしょう。いやそうならないと気になる…。で、ノルルスカインやミスチフは人類とは直接的にコンタクトしないで別の次元で戦いを繰り広げているんですね。それが物語の背景にうっすらと見えていて、手前の人類のごたごたとこちらの現在進行形の神話のような物語、二つを読むことが出来ると思います。でもカルミアンはがっつりと人類に干渉していて、その生態にまで手を加えている。それが今回の悲劇の中心となっているのですが、今までそういうのって人類側から描かれて来たと思うんですよ。(いや私が読んでないだけであるかもしれないけど)イーガンの「ワンの絨毯」とかね。その生態を調査される側としての人類と、手を加えることによって責任が発生してしまったカルミアンとの関係がすごく面白かったですね。それもきちんとなぜカルミアンがそういう発想をするかという基盤が最初にしっかり書き込まれているので、最後の衝撃の事実が明らかになった時には心の底から「あああー!」と思いました。
もう一つはイサリとアイネイア、ミゲラの三角関係。というかイサリの一方通行の恋なのがもうなんだか切なくて。中盤でイサリは自分の身体に関わる重大な決断をするのですが、もうそれって失恋して髪を切るのと同じことなんですよね。そしてそれが取り返しのつかない罪へと突き進んで行く引き金となってしまう。一方でミゲラの方もなんか分かるんですよね。一緒に遠い旅へ出るって約束したのにすっぽかされてしまう。連絡着かないし、社会的な状況はどんどん悪化していくし不安でいっぱいで。そこに居てくれるだけでいいっていう痛切な気持ちがなんかぐっときました。という訳で罪作りな男(笑)アイネイアがパート3でどんな巻き返しを(あるいはどん底を)見せてくれるのかとても楽しみです。