最強のふたり

フランス人の富豪フィリップは過去に事故で最愛の妻と自身の首から下の自由を失い介護を必要とする生活を送っていた。一方ドリスは職もなく失業手当を目当てに面接を繰り返し、仕事のない身では大家族の家の中で居場所がない。フィリップの介護人の募集にたまたま訪れたドリスは当てにしていなかった仕事にありつく。想像以上に過酷な介護の仕事にもドリスは持ち前の明るさとユーモアでフィリップと良好な関係を築き、やがてフィリップの回りの人々とも打ち解けて行く。

!!! ネタバレ!!!






ネットの評価がとても良かったので観ておかないと!と思って。よかった。最初、このフィリップという裕福層と、ドリスという貧困層の葛藤を描いた作品だと思っていたんだけどちょっと違った。お互いに確執はあまりなくて、わりと最初からこのふたりは最強だったんだよね。で、どこにドラマを持って来ているかというと、このふたりが一緒に過ごしたことが、それぞれの人生に還元されているってことだと思う。フィリップは自分の過失のために喪った妻のことが忘れられず、次の恋愛に踏み込めないのね。でもドリスはそんなフィリップのことをユーモアで茶化してしまう。そんなにくよくよすることないって、とか言って勝手にフィリップが密かに想いを寄せている文通相手(しかも一度も写真とか交換したことないピュアな関係だ)に電話しちゃう。ちょっとやめてー!(笑)でも恋愛ってどーんと行ってしまった方が良いこともあるし、こういう人が身近にいたらいいなって少し思ってしまった。いやでもやっぱりやだな…。ドリスと出会わなかったらずっとぐじぐじ文通で回りくどいやり取りして立ち消えてしまったかもしれないロマンスを、フィリップはふたりの関係から受け取るんだよね。
そしてドリスの側はというと彼は実はかつて強盗の前科があって、最初にフィリップの家に面接に訪れた時に、フィリップの大切な妻からの贈り物を軽い気持ちで盗んでいる。フィリップの友人が忠告したとおり、彼は粗暴で倫理観が低い人間でもあるんだよね。でもドリスは同時に底抜けに明るくていつでもジョークばっかりで女性を口説くことに熱心な魅力的な人でもある。フィリップは身体障害者の自分にも気さくで遠慮しないそんなドリスの一面を好ましく思って採用するんだけど、彼には裏の面ももちろんある。このドリスの影の面と言ったらいいのかな、そういう描写が秀逸で彼がホームタウンでたむろしている時の暗さとか、雑踏を歩いている時の先がぼやけている先の見えない不安感がすごくよく出ているんだよ。特に兄弟の問題を解決するために解雇された後、母親を駅に迎えに行くシーン。あの行き詰まってどうしようもない横顔とか、三人で雨が降り出した帰り道をとぼとぼと歩き去って行く背中とかすごく切なくて素晴らしい。
この映画は感情面のコントラストがはっきりしていてそこがすごいなと思った。楽しいとき、悲しいととき、苦しいとき。ぱきっと色づけしているんだけど、そのつながりがすごく滑らかなの。それができるのは役者さんの演技なのかなあ。それとストーリーに対して画面は全体的に暗い。ドリスがジョークを言ってフィリップを笑わせてるときもなんだか暗い。暗いというかあんまりはっきりした光を使ってなくて、これは演技のコントラストとのバランスなのかな。でもその暗めの画面がふたりの最強ぐあいを際立たせていてすごくよかった。
あ、それで、ドリスの側に何が還元されたかってことなんだけど、それは可能性なんじゃないかな。確かに彼には影の一面もあるけど、そうじゃない可能性ももちろんあるんだよ、ってことをこの映画は最後の最後で示すんだよ。フィリップのロマンスの隣にそっと置かれた宝物としてね。