ジャンゴ 繋がれざる者

あらすじ
南北戦争から数年。未だ奴隷制が根強く残るテキサスの森の中を奴隷を引き連れた男たちが進んでいく。彼らの前に現れたのは人の良さそうな紳士、キング・シュルツ。元歯科医で賞金稼ぎのシュルツは、賞金付きの犯罪者の顔を知っているという理由で奴隷の中にいたジャンゴを抜擢して、バウンティハンター稼業へと誘う。奴隷から一転自由の身となったジャンゴは、理不尽な理由で引き離された妻ブルームヒルダを奪還するため、シュルツと共にミシシッピの大農園主キャンディの元へと赴く。

タランティーノ作品って、とりあえず暴力的で気分悪くなるような表現が多いんだけどなんか憎めないというか、パンチが効きすぎてるけど豪快にノックアウトされる快感みたいなものがあってそこが面白いんですよね。で、この映画も相変わらずでした。でも勢いだけでもなくて、冒頭のジャンゴが森の中を感情を抑圧した表情で進む時の半分だけ顔にライトが当たるドラマチックなアングルとか、シュルツとジャンゴが馬に乗って共に旅立つわくわくするようなシーン、巨木の向こうに夕日が沈んでいく農園主の葬式の絵画のようなカットとか、端正な画を要所に配置する技量のある監督だと改めて思いました。暴力シーンとかインパクトがあるから、なんとなくそういう印象ばっかり残ってしまうのよね。あと冬景色の遠くに山並みが連なるシーンとか、画の尺度(スケール)が真っ当というか、教科書的というか。最近の映画で風景というと過剰なくらいに遠い時があるけど、すごくまともな距離感だなあと思いました。あとカメラがググッと寄るカットとか、あれはギャグなんだろうけど使い方が巧くてすごく面白かったですね。
それでいてガンファイトのシーンの暴発するような勢いとか、本当にすごくて魅入ってしまうんだよなあ。くどいくらいのスローの使い方も、肉片とか血が飛ぶ過剰な演出も、きちんと流すところと動きを見せるところをわきまえてるからなのかも。

物語はジャンゴが妻のブルームヒルダを救出するという単純で明確な目標に向かって展開しながら、暴力という一方的なコミュニケーション手段を使って、いろいろ歪んだ世界を渡っていくという感じでした。奴隷制じたいが現代から見ると歪んでいてその極みに居て象徴でもあるのが、キャンディという大農園主で、これを演じていたのがデカプリオなんですが、すごい堂々たるキレっぷりですよ。 この映画の中で、この歪みが中途半端だとストーリーの地盤が成り立たないくらいの重要な部分だと思うんだけど、もう盤石の演技でした。あいつには逆らいたくない(笑)そしてその歪んでる世界に暴力でもって乗り込んでいくシュルツとジャンゴ。シュルツはジャンゴの導き手のような役割を担っていて、ちょっと動機が分かりにくいけど単なる慈善家というわけでもなくて謎めいた存在で魅力的でしたね。そんなシュルツによって自由な人となったジャンゴは別に何かを正そうとしているわけでもなく、大勢の人を救うのでもなく、ただただ愛する人を救い出すだけなんですよね。ジャンゴは英雄にはならない、汚名も受けるし、目の前の非道な出来事にも目を反らすけれど、たった一人の人にとっての英雄になるんですね。シュルツが語ったドイツの古い神話のとおりに。それが歪んだ世界の中でコントラストを生んで、ひと際輝いて見えました。

なんといってもアカデミー賞助演男優賞を受賞したクリストフ・ヴァルツが最高でした。人の良さそうでいて信用しきれない一抹の不安を抱かせる微笑みをさせたら世界一ですよ。語学が堪能で、今作は英語劇だけど劇中でフランス語、ドイツ語を流暢に扱う洗練された物腰とかもう胡散臭くて最高です(褒めてる)語学の堪能なひとってステキ…!