シュガー・ラッシュ


あらすじ
今も昔もゲームセンターには子どもたちが集まり魅力的でたのしいゲームで遊んでいる。そんなゲームセンターの片隅で30年も稼働しているアーケードゲーム「フィックス・イット・フィリックス」の悪役ラルフは、悪役であるが故に誰からも顧みられることのない自分の存在に飽きていた。ヒーローが手にするメダルさえあれば、こんな状況から抜け出す事ができるに違いない。「フィックス・イット・フィリックス」の30周年を記念したパーティーに呼ばれてもいないのにむりやり乱入したラルフは、ヒーローのメダルを持ち帰ったらゲームの中で存在を認める、とキャラクターたちに約束させて他のゲーム「ヒーローズ・デューティ」に入り込みプレイヤーを無視して「ヒーローのメダル」を手に入れる。しかし「ヒーローズ・デューティ」の敵キャラ、サイ・バグに襲われたラルフは命からがら脱出し、ロリポップ・キャンディとチョコレートのかわいいステージで繰り広げられるカーレースゲーム「シュガー・ラッシュ」の世界へと飛び込んだ。そこで出会った生意気でもどこか憎めない女の子、ヴァネロペにメダルを奪われたラルフは、レースで優勝したらメダルを返すと約束させられ、彼女と共にシュガー・ラッシュのゲームに参加することになる。



甘くない。キャラクターや世界観はすっごくかわいいし(久しぶりに女子力の高い映画を観た)、展開もはちゃめちゃでスピード感があって、謎の盛り込みもヴァネロペの成長要素もとっても素敵で、ラルフとヴァネロペの関係の変化もとても丁寧に描かれているし(もちろんその他のキャラクターも)、なんと言っても音楽がポップで素晴らしい。とびっきり最高に面白い映画でそれは事実なんだけど、この映画の主題はこのスイートな外観に反して甘くないんですよね。

例えば「フィックス・イット・フィリックス」の主人公フィリックスは主人公なだけあって「いいやつ」キャラなんだけど、最後までそのキャラにぶれがないんですよね。フィリックスはずっといいやつだし、ラルフは普段から短気で乱暴者で、でも悪役の割に気のいいやつなんだけど、最後までそうなんですよね。この作品は、主人公が実は性格悪くて悪役が正義でした、みたいな既に描かれているような構図ではないんですよね。悪者は悪者のままで別の世界(ゲーム)に逃げずにどうすればハッピーになれるのか、それをこの映画では模索しているんじゃないかな。確かにラルフは元のゲームからシュガー・ラッシュという別のゲームに行くことによって、別の可能性を見いだしたと思います。壊すことしかできない男が、壊すことで何かを変えることができる。ほんの少しでも自分の別の役割を見つけたんじゃないかな。でもこの映画は、それを否定するんですよね。設定が変わってしまったら、別の世界に行ってしまったら、それはそのキャラクターの死に相当するのではないか。だからこの映画では、どのキャラクターも最終的には何も変わらない。元のゲームに、元にある姿に戻るだけ。朝になればまた同じゲームの中で同じ役割を果たす、その繰り返し。毎日がきっちりとプログラム通りに同じなんですよね。そういう世界でどうすれば幸せになれるだろうか。それは幸せであろうとする態度なのかな、と思うんですよね。幸せであろうとする気持ち。毎日壊すことしかできなくても、エンディングで懲らしめられても、その一瞬に幸せを感じること。その一瞬に幸せを探すこと。幸せであろうとすればそれは幸せ。外から突然与えられる甘い幸せを否定して、自分自身がそう思うことで得られる幸せを模索する。それがこの映画での「甘くない」幸せのかたちなんじゃないかなと思います。そう、ドラマチックなハッピーエバーアフター(めでたしめでたし)なんて要らない。だってゲームはコンティニューするんだから。永遠に。

というわけで、ゲームネタが満載でちょう楽しかったです。メタルギアの「!」も登場してました。おい、誰だ忘れてったのw 一番ぐっと来たのは、フィリックスのジャップする時の音ですね。「プイーン」っていうファミコン音によわいのよ。あとスト2のキャラがわりと出ていたのがうれしい。ずっとリュウ使ってたのよね。ザンギエフも出てたしね。それとヴァネロペの特殊能力は設定的には面白いんですがいざゲームで使おうとするとけっこう難しいと思います。あれでしょ、ワープ後は無防備だったりするんでしょ?(ダルシム的に)




同時上映(短編):紙ひこうき

なんてことない日常に、なんてことない道具(紙ひこうき)でファンタジーを盛り込む方法がとても巧い作品。紙ひこうきというアイテムが、風の流れを表す指標記号として、主人公の気持ちをそのまま表す類似記号として、恋愛における伝達の困難さの象徴記号として、この三つを一つで表していて、とても機能的です。そして主人公の気持ちの揺れ動きを担った紙ひこうき自身が、主人公の行動の後押しをするファンタジーはディズニーらしいというか、ディズニーだからこそ許される表現方法。さらにエンディングが始まりの場所へ戻るというストーリーの基本も踏まえているんですよね。キャラクターの演技も細かくて大人の鑑賞向けに演出されているし、音楽とカットの連携のセンスもとてもいい。短い時間の中で情動を効率良く盛り上げるアイデアに溢れている短編でした。大好き。