後藤さんのこと

後藤さんのこと (ハヤカワ文庫JA)

後藤さんのこと (ハヤカワ文庫JA)

ちゃんと読めてるのかは分からない。でもちょっとずつ「こうなのかな」という手がかりができつつあるような気がしています。それって自分だけのものなんだけど、それが楽しい。

  • 後藤さんのこと

かっこいいよね、後藤さん。一度言った事はきちんと守るし、タバコの始末もちゃんとする。それでいて過去と未来とかなんかそういう「当たり前」のことを、時系列に並ぶことの当然をぶっ飛ばしてしまう豪快さがすき。それに帽子も素敵なんだよね。色違いの帽子をかぶった後藤さんたちが、荒野の決闘よろしくにらみ合ってるなんてドラマチックよね。あと土日は何してるか知らないけど、後藤さんに一定の光を当てると後藤さん生まれるなんて楽しすぎる。さらにこの後ダーク後藤さんも登場するし、後藤さん発電も可能になる未来は明るいわね。でも後藤さんはもういない。この頭のなかに会社の休憩時間にだべってる後藤さんは居るけども。お世話になっていますって後藤さんは言うけど、たぶんお世話になったのはこちらの方です。ありがとう。ていうか、後藤さん何者。

  • さかしま

たぶん逆の世界のことなのかも。あのイーガンの「暗黒整数」的な別の数学理論が「活きている」世界とこちらの世界のことかな。それをこの短編という「窓口」を介して書き下されたもの。うーん。

  • 考速

速くて複雑で、とてもついて行けない思「考」の「速」度でした。文字を数学の式のようにあるいは図形に展開するその元々のネタは分からないけど、考えることを光の性質と同列にする発想(そしてこれがタイトルにもかかっている)はなかなか楽しかったです。うん、よく分からないからよく考えてみたい。そんなに速くなくてもいいからゆっくりとでも。あと、密かにナイトヘッドに言及してたところは笑った。すごい、こういうのも読んでるんだね。

銀河帝国の衰退と滅亡の歴史」。ギャグめいてるのでたぶんギャグなんでしょう。ギャグ…。うーん、どの辺が?

これ、プログラミングではおなじみの「ゴミ収集」という意味じゃなくて、文字通り「ゴミのコレクション」のことだと思います。計算途中で捨てられた選択肢をゴミとして切り捨てるのではなく、それすら計算過程の中に組み込む事で、計算の「逆走」を可能にすること。現代の計算理論で可能なのかは知らないけど、なんとなくまあそういうことなのかな。そしてその計算が逆走する方向は過去になる。将棋の棋譜を逆再生するようなもの。王手から初手に戻ること。計算を解くもの(solver:ソルバ)と逆計算を解くものとの交差が、まるで路上で一瞬だけ目を合わせた男女の出会いのようにロマンチックです。お互いが一対となることが定義されている存在であるにも関わらず、進む方向が逆になるなんてね。

  • 墓標天球

珍しくファンタジーな感じ。時間がまだ時間である前(前というのも変な話)、たまねぎのように何層にも重なった天球の表面で交差する、少年と少女とそして私の、時間の断片。物語を示唆するようなエピソードが綴られながら、回転する階層化した天球とそれを回し続ける天使や、サイコロの展開図を比喩に使って時間と空間を解釈してみようとするような、そんなストーリーでした。テッド・チャンが、キリスト教使徒を例えに自然現象を表現して彼なりの地獄を描いた「地獄とは神の不在なり」に対してこちらは、物語が物語として成り立つ序列を手に入れることを描いているのかも。あるいは逆に完成され秩序だった物語を解体することで忘れ去られることを回避しようとしているのかも。だって忘却は時間の進む方向に置き去りにされていくものだから、その時間の順序さえなければ忘却ということは起こりえない、ということかな。

  • INDEX

自分自身を読む本と魔法使いのこと。オチはご愛嬌。