探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点

あらすじ
ススキノで探偵稼業を営む<俺>は、なじみのオカマバーで働くマサコが殺された事件を捜査しはじめる。警察も動きそうにないなか、マサコは過去に政治家の橡脇考一郎と関係していたという情報をつかんだ探偵はさっそく橡脇とマサコの関係を調べ始めるが、その捜査を監視する怪しげな人物が探偵にまとわりつく。



探偵はBARにいる、略称「タンバニ」*1第二弾です。なんだか前作よりもいろいろ盛り上がっててとても楽しい映画でした!やっぱり地元がスクリーンに出てるってそれだけでテンション上がるよね。今作も探偵役に北海道の大スター(笑)大泉さん、無敵のカラテマン高田役に松田龍平さんのコンビで登場でした。この大泉さんの探偵がねえ、なまらはまってるのよね!探偵って言ったら、タフで優しくて人情にあつくてでもって時々は非情な判断を下したりして、かっこいいイメージだと思うんですが、このうちのタフなところは全部高田が担当してるんですよね。まあ探偵もそれなりに強いといえば強いんだけど、どっちかというとぼこぼこにされてる方が多いかな。かっこわるー。それに優しかったり非情だったりの基準がもうその場まかせで、いわゆるハードボイルドなキャラクターが持っているような確固とした信条がなくてかなりゆるゆるなんですよね。おまけに金に汚い(笑)でもそういう人並みの言ってみれば本当にそこらへんにいるような、状況によってころころ基準や価値が変わってしまう、それでもこれだけは譲れないという一点をぎりぎりで持ち続ける、リアルとフィクションの線上にあるキャラクターを演じられるのは、この人なんだよなあと思うんですよね。
それと今回は高田がすごく積極的でした。なんした(どうした)高田!?この人もまた、探偵の側にぼやーっと立っていて存在感が薄いようでいて、いざという時にいないとすごく(探偵が)困る重要なキャラクターなんですよね。このキャラクターもまた、ぼんやりとしていてどこにでも居そうなメガネというリアリティと、不死鳥のごとく何度でも立ち上がる不滅のファイターというフィクション性を上手く両立させているなあと思いました。いやいや本当に高田大活躍だよ。

それと今回は室蘭も舞台に登場するなどススキノ以外のシーンもとても良かったです。あの鉄鋼所の団地のオーバーラップは印象的でしたね。それと最後の方に出ていた円形の小学校も、道内はけっこうこういうかたちの学校あるらしいですよ。中山峠の空撮は去年のシーンかな。去年はあんまり紅葉きれいじゃなかったけどなかなかいいシーンになってて良かったです。

以降はストーリーに関する言及です。

ネタバレ











今作は表向き、直球の「昭和」な展開でした。まあ言ってしまえば「砂の器」のような、切り捨てた過去への恐怖をモチーフにしているし、ラストの演奏会のシーンはそのまんまですよね。しかしそれは表向きの構造で、この物語の本来の構造は普遍的な人間の闇を描いていると思います。この物語には2種類の人間が登場します。名を持つ者たちと、名を持たない者たち。名を持つ者とは、政治家の橡脇考一郎であり、バイオリニストの河島弓子です。彼らには名声があり、その名前は広く知られています。一方で探偵にはそもそも名前がないし、ススキノで暮らす人々は皆、真の名前を知られることなく、名声などというものもない。この映画で面白いなと思ったのは、そういう名前を持たない匿名の人々の混迷を描いているから。そしてその名前を持たない人々は、それぞれ名を持つ人とセットになっているんですよね。例えばマスク姿のバットを持った匿名の集団は、橡脇という名を持つ者の影であると言えるのかも。そうすると探偵は、河島弓子の影という役割を担うんですよね。中盤で、探偵と橡脇が対面するシーンは言ってみれば光と影の対立であり、同じく「人の役に立つ」という仕事をする者どうしのぶつかり合いでもある。橡脇が持てるものの義務、いわゆるノブレス・オブリージュとして多くの人間を救おうとしているのなら、探偵は持たざるものの義務を、匿名という影の中に薄く描かれている一人の人間の物語を救おうとしているのだと思うんですよね。しかもこのシーン、ちゃんと橡脇は白のシャツ、探偵は黒のジャケットときちんと画面内の色彩を演出しています。(読み過ぎかな)
そして持たざるものの闇が、この物語の真の暗部なんですよね。影は光の当たらない場所に存在するただの現象です。それ以上でもそれ以下でもない。この物語の闇は光の中にも、影の中にも存在し得る、普遍的な人間の闇の部分です。今作では持たざるものの側に闇を置きましたが、これはどこにでもあってもおかしくない。そして持たざる側の探偵はその闇の深さに絶望するんですよね。影の中にも一人一人の物語は存在する、けれど救うに値しないものも存在するのだと突きつけられたのではないかと思います。ただこの真相部分をおざなりに片付けてしまったのは残念でしたね。娯楽映画だから、ああいう手っ取り早い手段で溜飲を下げる必要もあるんだろうけど。
そして本来の影としての役割を探偵は最後に演じきります。それは持てるものの影となること。最後の解釈は、あの人は影を刺しただけ、というようにも読めました。

ちょっと犯人の扱いが雑な点を除けば、とても機能的なシナリオでした。(機能的は褒め言葉です)まあこんなことを考えなくてもわりとスカッと楽しめる作品でした。だいすきです!

*1:d:id:toshi20 さんに便乗しました。