グランド・イリュージョン

フィクションとしてのマジック

マジックには必ずしかけがあります。当たり前です。でもマジックはそのしかけを明かさずにいかに人を驚かせるか、人に夢を見させるかということが作法だと思います。私はSFが好きなんですが、SFは逆にしかけを理詰めで構築しそのタネをいかに流暢に説明するか、タネを明かしながらいかに驚きと夢を提示するかが作法です。もし瞬間移動ができたら、もし予知能力があったら。夢物語をこの世界に具体化させる手段の一つとしてマジックはあると思います。SFがそうであるようにマジックもまたフィクションの一つなんですよね。
では、SFが科学を基盤として丹念に構築されるように、巧妙にしかけられたよく計画されたマジックを見破ることなんてできるでしょうか。SFには「高度に発達した科学は魔法と見分けがつかない」と言う言葉がありますが、高度にしかけられたマジックは、よく練り上げられたフィクションは、現実と見分けがつくでしょうか。SFと違ってタネを明かされることのないマジックは、驚きとともにそれを現実だと受け入れるしかないんじゃないかなと思うんですよね。ある日突然、そうだったんだと気づくまで。
この映画はマジックを使った逃亡アクションという表層を持ちながら、マジックそのもの、巧妙に人をだますことそのものでもあります。映画という、これも見た目で人を巧妙にだますメディアでマジックをやること。すっかりだまされましたよ。そしてだまされていた間、とんでもなく華やかでとびっきり贅沢な夢を見せてくれたことがとても嬉しいんですよね。



この映画、ほとんど犯人とされる4人のマジシャンをマジックなんて最初から信じていない、そのフィクションを真っ向から否定する一人の刑事がどたばたしながら追いかける、という展開なのですが、観ていてああこれってルパン三世だなあと思いました。ていうか紅一点を含む4人のマジシャンもルパン一味っぽいし、なんと言ってもローズ刑事の風貌がなんだか観ているうちに銭形に見えてくるから不思議。ルパンことアトラス(ジェシー・アイゼンバーグ)を雑踏の中でがむしゃらに追いかけるシーンとか、追いかけていたつもりが巧妙に逃げられた時の怒りとか、おおこりゃあ銭形だなあと思いましたね。ルパンのように華奢でめちゃくちゃ早口で天才肌っぽい雰囲気のアトラスも良かった。いやほんとねあの早口はもう芸だね。リスニングには少し自信があるけどあんまり聞き取れなかったよ。紅一点の女性、ヘンリー(ヘンレイ?)の少しハスキーな声と堂々とした華やかなたたずまいも素敵でした。
どうでもいいけど、この役を演じたマーク・ラファロ、「アベンジャーズ」のハルクことバナー博士でしたね。画面に出て来た時からずーっと「あ、ハルクだ」って思いながら観てました。今作は怒っても大丈夫。あと、マイケル・ケインモーガン・フリーマンが一緒に出てくると執事と技術主任が喧嘩しているように見えますね(笑)