第六ポンプ

第六ポンプ (ハヤカワ文庫SF)

第六ポンプ (ハヤカワ文庫SF)


ちょっと変わった世界観での物語が魅力的なバチガルピの短編小説集。ポケットに入るくらい小さなデバイスにアップロードされた人格と路地裏の浮浪児の生活が対照的な「ポケットの中の法(ダルマ)」とか、「カロリーマン」の穀物の遺伝子著作権を牛耳る巨大企業とその畑の周辺で暮らす貧しい人々など対比のある世界観が楽しいですね。面白いのは格差に注目するのではなくて、あくまで底辺からの視線に徹底していること。「イエローカードマン」もそう。ものすごく困難な生活を強いられている人々が、そこでできることをするだけ。それを淡々とそして緻密に描かれているだけで、壮大なテーマがどうというのがほとんどないんですよね。この作家の作品はちょっとしたフェイク・ドキュメンタリーな感じがします。「パショ」の具体的な説明なしで進める作品とか読むのけっこう難しかったけど面白かったなあ。それと、人知れず大都市のインフラを支える巨大構造物が壊れて行く表題作がすごく好きです。でかいものが動いているイメージもいいし、なによりこの構造物の崩壊が人間の体系的な知の崩壊を象徴していて、それがゆっくりと進行していく、という緩やかな破壊がすごくぞわぞわしてていいんですよね。