敵は海賊・海賊版 DEHUMANIZE


あらすじ
火星の砂漠のなかにある町、サベイジに寄り集まる海賊や無法者を相手にバーを経営するカルマは、相応しくない来客を迎える。ランサス星系の王女フィロミーナ窊の主席女官シャルファフィンは、疾走した王女を捜すため、その存在すらごく少数しか知られていない海賊ヨウ冥(漢字がでない)を求めてサベイジを訪れていた。カルマはシャルファフィンにヨウ冥を紹介するが、海賊は世間を知らない女官には取り合わない。シャルフィファンはヨウ冥の手下の海賊となることで、ようやくヨウ冥と行動を共にするのだった。一方、火星ダイモス基地所属の対宇宙海賊課・一級刑事であり、猫型異星人のラテルと相棒の黒猫アプロは、海賊ヨウ冥を追ってサベイジの町を訪れていた。



いやー。いやいやいや。ヒロイックな海賊、世間を知らない美しいヒロイン、人語は話すけど姿はまんま猫(ていうか豹)、ユーモアを理解する宇宙船、魔女や妖魔など人間を超越した神話的存在が登場していて、一見するとSFというよりファンタジーのようですが、いやー全然そんなことはなかったね。この物語は海賊相手にバーを経営するカルマという人物が、著述支援ソフトウェアCAWを使って、仕事の傍らヨウ冥から聞いたエピソードを記述したもの、として語られています。
まあつまりこの海賊たちや海賊課の物語は、カルマが書き出した話をベースとした人工知能CAWの創作、というふうに取れると思います。ねー。やっぱり、一筋縄のファンタジーにはならなんですね(うれしい)
さらに物語の中では鏡のこちら側とむこう側のようにキャラクターが入れ替わります。このあたりが後半になるに連れてかなり混乱した…。同じキャラが別の行動を取るので、これはあっちのラテルで、あれはこっちのアプロで…とちょっと立ち止まって考えながら読みましたね。異なる世界線のキャラクターたちをよくここまでまぜこぜにしたなあ(そしてよく整合性取れるなあ)と感心しました。


キャラクターの中で一番魅力的だなあと思ったのは、黒猫のアプロですかね。食いしん坊のどら猫なんだけど、海賊を追いかけている瞬間はまさにネズミを追う猫のごとく本能的な殺意に溢れていて、いかにも猫らしいキャラクターですきでした。あ、でもこういう猫は飼いたくないな(笑)


ネタバレ



悪という存在を描くこと


物語の終盤でヨウ冥は、もう一人のヨウ冥と入れ替わりにこちらの世界に戻ります。それはこちらの世界で彼を操ろうとする力に対抗するため。あちらの世界ではごく普通の銃がこちらの世界では存在すらかき消してしまうほど協力な銃となり、エネルギーをあちらの世界に送るんですね。そういう世界にヨウ冥はたった一人で来た。この動機はどこから来ているのかというと、これはアプロと同じく単にそこに敵が居るから、というだけだと思うんですよね。猫がネズミを追うごとく。そして自分の良心がクラーラという白い猫として常に側にいる。ヨウ冥はこの世の者でもなく、さらに良心すら自分から切り離した存在なんですね。これって完全に近い悪なんじゃないかなと思います。そしてCAWはそういう、完璧な悪をいかに描き出すかということに挑んだのではないかと思います。