インターステラー


あらすじ
環境が激変し人類は緩やかに絶滅への道をたどり始めた。科学技術は生存戦略に注ぎ込まれ人々はその日を生きるためだけに生きている。かつてパイロット兼エンジニアとして活躍していたクーパーは、今は田畑を耕す農夫だ。年老いた父と息子、娘と共に彼もまた人類の一員として人類が存亡の危機に瀕しているとも知らずにその日をやり過ごしていた。そんなある日娘のマーフが怯える「幽霊」の存在をつかもうとしたクーパーは、予期せずある座標を手に入れる。その座標を追跡した彼とマーフは既に人類が諦めた宇宙への開拓精神を未だ持つ組織に遭遇する。



ダークナイト」シリーズ、「インセプション」などアクション・SF映画を主に製作しているクリストファー・ノーラン監督最新作です。「インセプション」など好きな作品が多数あるので公開前から楽しみにしていてさっそく観てきました。


まずは正直に書くと、思っていたほど大きな感動はありませんでした。と、書くとなんだかちょっと違う気もするんだけど…。うーん、すごく心揺さぶられるところはたくさんあったんですね。ネタバレするのであとで書きますけど。でも観終わって全体を振り返ってみると、なんだかつかみどころのない、奇妙な映画だなと思うんですよね。
予告編でも流れているように、宇宙に飛び立つ父と地球に置いて来た家族とのドラマが主軸になっています。とてもドラマチックでいいなあと思うシーンはたくさんあるんですが、なぜかカットがすごく雑…というか荒っぽいような気がするんですよね。この監督の過去の作品を見ると決してそういうところが下手ではないと思うので、これは意図的なものなのかなーとも思うんですが。荒っぽいというかカットのつながりが唐突で、情緒がぶつぶつと切れてしまうところがいくつかありました。なんだろう、SF作品には人間ドラマよりもその背景の技術や世界を描こうとする作品もあるので「人間が描けていない」ということは全然、マイナスにはならないんですよね。でもたぶんこれは家族やクーパーという一人の男の個に密着したストーリーだと思うし、ノーランはそういう個を通して世界を描くのがとても巧い監督だと思うんですよね。その手前の個が時々上滑りしている。なんだかそういうふうに感じました。


あとこれはもしかしたら私が観た劇場だけなのかもしれないけど、会話の音がとても悪かったのも原因の一つなのかもしれません。IMAXで観たのですが、背景音は身体が揺さぶられるくらいの音響でとても臨場感があって素晴らしかったのに、人間が話す声がちょっとくぐもってしまってせっかくのドラマがなんだか上手く伝わっていないような気がしました。うーん、別の劇場でもう一回観てみるつもりだけど…。途中まではこれは意図的なのかな、と思っていたけど最後まで同じだったのでどうなんだろう。


と、気になるところはいろいろあったんですが。やっぱりすごい映画でした。私はこれまで、こんなにも愚直に宇宙の向こう側、世界と世界をつなげようとした作品は観たことがなかった。
これを書いていて思い出したけど「ツリー・オブ・ライフ」という映画も家族の関係と、世界や宇宙をつなげようと試みる映画だったと思いますが(正直観た直後は意味が分からなくて他の人の批評を観て理解したんですけどね)、この映画はもっと低い目線で素朴にその手を伸ばしているような映画だと思いました。地球を飛び出していった一人の男が、スターチャイルドになるのでもなく(2001年宇宙の旅)、進化の過程を再生しながら大地に降り立つのでもなく(ゼロ・グラビティ)、一人の男としてただ戻ってくるだけのお話。そのなんでもないことに費やされる奇跡が、「起こることは必ず起こる」という必然に帰結する。ある意味それはフィクションの力なのではないか、と思います。


!!! 以下ネタバレ !!!







劇中で一番興奮したのは、後半、爆発によって回転がかかった宇宙船にドッキングするシークエンスでした。その前段階としてオートパイロットでスムーズにドッキングするシーンがあり、爆発の原因となった飛行士がマニュアルで無理にドッキングしようとした経緯が綿密に織り込まれていて、すごく緊張感がありましたね。当然人間の手では無理な母船とのドッキングを、コンピュータ(ロボット)の力と人間(クーパー)の勘を協調させて挑む。うわー!うわー!ってすごく思いましたw あの暴力的な回転の最中の描写もすごく怖かった。
この映画を観ながらすごく既視感があった、というか背景のワームホール理論や量子論のくだりはハードSF作家のグレッグ・イーガンの作品を思い出しました。「あ、これイーガンで読んだやつだ!」と何度か思ったんですよね。アメリア(アン・ハサウェイ)が「彼ら」とハンドシェイクする場面はこの前読んだ短編「対称(シンメトリー)」のようだし、クーパーが飛び込んだブラックホールの描写はそのまま「プランク・ダイブ」ですよ。
もうね、ノーランはイーガンの作品を映像化すればいいじゃないと思いますね(笑)


一番こころが揺さぶられたところは…うーん後半はけっこう感動しっぱなしでしたね。でも戻って来た父が、一人の男として人間としてまた星と星との間(intersteller)を渡って旅立っていく。そこにはどうしようもなく、そこに行きたい、行ってみたいという根源的な情熱があるように思えてとても良かったです。