天冥の標 8 ジャイアント・アーク Part2


廃墟はそこに遺されたものたちの物語の場だ、と思います。その場に立つと、かつてそこにあった活動の記憶、誰かがそこに居たという残り香を読み取ることができる。終わってしまった物語を振り返るように、もう二度と活気を帯びることのないその場所から、そこに居た人々を、そこにあったモノを想像する。というのが、廃墟を訪れる楽しみであると思います。


さて、天冥の標ももう8巻です。全10巻(10冊ではない)を予定しているというこのシリーズですが、この巻がターニングポイントなのではないかと思いました。
ここまでくるとさすがにネタバレなしで書くのはなかなか厳しいのですが、がんばって書いてみます。今作はこのシリーズの時系列的に先端のお話です。なので過去のエピソードや伏線がどんどん回収されつつ、新たな展開を迎えています。そして過去に舞台になった場所が廃墟として登場します。そう、冒頭でつらつらと書いた廃墟を訪れる楽しみがあるんですね。しかもそこは初めて訪れる場所ではない。まったく馴染みのない場所ではなく、当時のキャラクターたちと私はそれを「目撃していた」。何十年、何百年もたってその物語の風景に立ち返ること。廃墟の元の姿を知っていること。それがとても楽しかったです。そこで何が起きたのか、誰が哀しみ、喜んだのか。その細部を知りながら朽ち果てていくモノたちを、現在のキャラクターと共に歩き回って見る。何度も「ああ、これはあれだ!」と思いながら読みました。廃墟に存在していた物語が既に語られているんですよね。「ここの人たちはどういう想いで暮らしていたんだろう」という想像ではなく、私はここで暮らしていた人たちを知っている。何が起きたのかを知っている。それを知らない現在のキャラクターたちにやきもきしながら(笑)一緒に旅をしていた、そんな物語でした。


なので、これはシリーズ最初から読むことをおすすめします。本当に。


それともう一つ。この物語のスケールの幅がすごい。人類や宇宙、生命とはなにかという壮大な一面もあれば、林檎のエピソードが丹念に語られていたり(林檎って普通に食べるあれ)、個々のキャラクターたちの感情や立場が綿密に描かれているかと思えば、宇宙に進出した人類や生物の生態から政治、技術などの文明にまで言及したりと、この帯域を自由に行き来する構成力、筆力が素晴らしい。私は個々のキャラクターたちの葛藤や戦いぶりに注目して読んでいるけど、それだけに収まらない世界観の大きさが魅力的ですね。いろいろな事象や事件が絡んでくるし、それを物語として進めていくのってほんとすごいよ。


以下ネタバレ












前作では衝撃的なメニー・メニー・シープの裏話が開示されたことで、今作はわりとエキサイティングな展開多めで久しぶりに「アウレーリア一統」的な豪華な展開でした。でも冒頭からいきなりアクリラが大変なことになって「うわー!」って思ったけど、最後は全裸ではっちゃけてましたね(笑)カドムたちの世界の秘密を探る旅のパートと、エランカの新政府の統治のパートとが交互に描かれる展開でしたが、どちらもこんなゼロの状態から動き出すぞ!という胎動を感じさせてとても楽しかったです。今作は前回にくらべてイサリの切なさ少なめ…と思ったら、後半で泣かされましたねー。うう…良かったよ。バトルも多めで久しぶりにこれはアニメーションで見てみたい!と思わせるシーンがいくつかありました。カドムは全然戦わないけど、他のメンバーが強いよね。地上組の<恋人たち>も活躍していたし。
それと<メニー・メニー・シープ>からちらちら登場していた謎の二人組、ルッツとアッシュ。バトルの緊迫したシーンでどきどきしながら読んでいたので、飛び入り参加にもう緊張感がふっきれて笑いが出た(笑)なんだ、めっちゃかっこえー!
さあとうとう謎も明らかになったし、アクリラは一足先に壮大な真相に近づいたみたいだしこれからどうなるのかな。ここまで物語が進んでいるのにこの先がまったく予想つきません。本当に楽しみだ!