博士と彼女のセオリー


車椅子の天才、物理学者ホーキング博士の半生を描いた作品です。


まず原題の「The theory of everything」、Wikipediaでの説明はこうなっています。

万物の理論(ばんぶつのりろん、TOE: Theory of Everything)とは、自然界に存在する4つの力、すなわち電磁気力(電磁力とも言う)・弱い力・強い力・重力を統一的に記述する理論(統一場理論)の試みである。

http://ja.wikipedia.org/wiki/万物の理論

私も難しいことはちゃんと理解できているわけではないけど、映画の中でも言及されていたように世界はシンプルな式で表現できるはずだ、というアイデアを理論で表現する壮大なチャレンジですね。
でも、これって未だに完成していない理論だったと思います。多くの物理学者が夢見ている、単純で美しい式は、まだきちんとしたかたちにならずに理想のままであり続けています。


と、あまり詳しくもない物理学の話は続けられないので、夫婦の話をしましょう。あ、これもあまり詳しい話題ではなかった(笑)理想の夫婦、というものがあるとします。お互いに思いやり、時には言いたいことを言い合っても最後にはなんだかんだと一緒に居る。私の一番身近な夫婦、両親を見ているとたぶん理想の夫婦とはこういうものなのかな、と思うんですね。でもそれはあくまで私自身の想像です。こういう理想像は人の数だけあるし、実際に夫婦である人たちの方がもっと具体的な像を持っているかもしれません。
理想の夫婦もまた、きちんとしたかたちになっていないし、これからも理想のままであり続けるでしょう。


さてようやくこの映画の本題。理想を追い求めることと、理想が実現することは違う、ということ。
ホーキング博士は万物の理論の一つ、重力の視点から時間を巻き戻すことで、その重力の特異点を見いだしました。このシーンは後に妻となるジェーン(フェリシティ・ジョーンズ)との出会いとうまく絡めて描かれていて、とてもロマンチックで素敵でした。コーヒーに落としたミルクがぐるぐるうずを巻くように、時間をどんどん遡っていく。二人が手をつないでぐるぐる回るように。
博士の理想が一つの理論を産み出した。敬虔なイングランド国教会(CE)である彼女は理想の家庭を夢見た。
現在もまだまだ健在のホーキング博士は、よく知られているようにALS患者です。その頭脳は非常に明晰でも、身体を動かすことはできません。その生活はほとんどの局面において他者の助けが必要です。
ジェーンは良き妻だと思うんですよ。彼女が夢見たであろう理想のように。そしてスティーブンは良い夫であったと思います。彼らは数多くの困難を抱えながら、「普通の家族」であろうとしました。
誰もが想像する、シンプルで理想的な夫婦に。
その困難の中にあってもお互いを思いやるシーンは博士の人生に降りかかる悲劇に対して、唯一の希望であったと思います。


万物の理論は完成していません。理想の夫婦はあくまで理想のままです。
でも。その理想を追いかけた結果に産み出されたもの。それがラストシーンで端的に示されているものだと思うんですよね。理想は理想のままだけど、人は素晴らしいものをこの世界に産み出せる。とても良い映画でした。


ちなみに邦題のセンスいいですね。まあ「万物理論」だと観に行く人限られそうだし、期待とは違うものになりそうだしね(笑)それにしても実話かどうか分からないけど、声を失った博士が機械を通して話せるようになった時に「デイジーデイジー♪」と機械に言わせながら、子どもと遊んでいるシーンに、ああこんな大天才なのに普通にSFオタクみたいだな、とほっこりしました。