2013年 年刊日本SF傑作選 さよならの儀式

去年の年刊SF短編集です。今年のものはもう出てますね。周回遅れになっちゃったけど。

こういう人間と機械の距離のお話すき。すべて一方通行の片思いなのも切なくて良かった。

  • コラボレーション(藤井大洋)

プログラミングをする人ならきっとその感覚が分かる小品。私はピアノはやったことないけど、覚えた譜面をそらで弾くのと覚えたコマンドをキーボードで叩くのはちょっと似てるんじゃないかな。そういう感じのお話です。

ライトノベル異世界転生もの?というのかな。地下迷宮のボスになっちゃった学生さんのお話。ギャグから一転する展開が見事でついつい引き込まれました。

  • イグノラムス・イグノラビムス(円城塔

タイトル書いてて訳分かんなくなった。伊倉のオムライス?じゃないけど、お食事がテーマの…えっと「知る」ことのお話。たぶん。なんだかすごいことが書かれてるような気がするけど、そうでもないような気がする。いつもよりかしこまった、ちょっと高いレストランで出てくる一皿のような感じの作品でした。(説明してない)

「あの冲方丁がニンジャ・スレイヤーを書いたら」的な作品。素晴らしい。設定こそ変えてあるけど、奇妙なジャパネスク風味のアクションがすごく面白かったです。「マルドゥック・スクランブル」で見せた語彙力の高さがこんなところで発揮されるとは(笑)短い中に詰め込み過ぎなところが、いい感じに展開にスピード感を与えていて流石でした。

  • 風牙(門田充宏)

他人の記憶にダイブする、ちょっとサイバーパンク的なSF設定がとても良かったです。共感者たちが「その世界」をどう構築して行くのか、相棒の人工知能を使ったやりとりなどで分かりやすかったですね。ただちょっと冗長な感じも少しありました。擬験システムは語感的にニューロマンサーぽいやつなのかな、ゲームだけど「アサシンクリード」シリーズにも似たような記憶ダイブシステムがあるので、もっと簡潔な説明でも大丈夫かなと思います。読み手があまりSFを読まない人ならこのくらい説明的でも良いかも知れませんが。会話が関西弁で緊張感のなかにもどこかユーモアがあるところもかっこ良かったです。ただ主人公と周りの人間との関係が少し気になりました。長編だと主人公の過去のエピソードで語られそうなところだけど、救出対象となる社長と主人公との結びつきが少し弱いかな。この社長、主人公の超人的な共感能力のまったく逆、マイナスの共感能力者なのかと思ってました。(そういう描写はなかったけど)
その対比がもっと読みたかったなあ。共感力乏しい人と、共感力ありすぎる人とのコミュニケーションってどんなだろう。
サイバーパンク的な感じでありながら、ごく普通の人情的なお話になっているところはすごく良かったです。面白かった!