My Humanity

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My Humanity

長谷敏司さん初の短編集。少し理解が及ばないところもあったけど(SFにはありがち)すごく面白かったです。

  • 地には豊穣

疑似神経制御言語(ITP)という技術によって、文化とは何か、そのどれかに(あるいは多重的に)属する人間の生き方とは何かを描いた作品です。ITP自体は架空のものだけど(まあ何か既存の技術をベースにしてるのかもしれないけど)、そこから導きだすもの、導き出す過程の容赦のなさ(笑)に、読んでいてひやひやする楽しさがありますね。文化という人間性(Humanity)を包み込むものを、伝統に固執するのでもなくかと言って流行の表層を追うだけではない、動的なうねりのようなものとして描いていると思います。それにくっついている人間的な感情、感覚を緻密に拾い上げる手つきも素晴らしい。イメージとして広がる満開の桜の風景が印象的な作品でした。

  • allo, toi, toi

前に年刊SFで読んだ時は…正直引きました(笑)最後まで読んだけどちょっとよく分からなかったんですが、今回はあれ?なんだか面白い…と思って読みました。前述のITPが登場する、文化以前の「好きと嫌い」のお話。好きとか嫌いとか…の話が出てくるのは伊藤計劃さんの「虐殺器官」ですが虐殺器官が意識の下層にアプローチする物語である一方、こちらは既にでき上がった意識の上層、常識や倫理といったコードに「好き嫌い」を矯正する物語だと思います。人間は動物的な「好き嫌い」だけで生きている訳じゃなくて、正義を成す事を快く感じたり弱者を虐げる事を忌み嫌ったり、そんな複雑な好悪を既に持っている生き物なんですよね。そしてその好き嫌いは個人の中で完結しているのではなく、社会や文化といった中で生成されてきた人間性と呼ばれるものだと思います。すごいですよ、人間性が矯正されて行く様は読んでいて目を背けたくなるのに、その客観的な過程が面白くて離せないんですもの。

うーん、ちょっと難しかった。hIEと呼ばれるロボットや超高度AIが登場する物語。お話の内容が少し難しいんですが、なんだか妙なポイントでギャグっぽい描写があったり(笑うとこなのかちょっと分かんないけど…)、ドレスやコンピュータなどのガジェットがけっこう遊んでて楽しかったです。また時間を置いてから読み直したらもうちょっと理解できるかも(しれない)。

  • 父たちの時間

ナノマシン技術を中心に、環境を変えるということ、技術の在り方、親子の関係をぎゅぎゅっと詰め込んだ短編。いやーすごいねこれは。技術に置いてかれる人間がこれでもかってくらい非情に描かれてるので、読んでてどきどきしました。でもこの心臓に悪い緊張感、嫌いじゃない(笑)文学って詳しくはないんだけど、人と人の関係から人間たるものを描くものだと思うんですが、SFって人と科学、あるいは技術なんだなあと改めて思って、あーやっぱりSF好きだーと思いました。はい。人間ってなんなんだろう、この科学を持ってしてもままならない自然に対する時のその小ささに愕然とするし、もうここまで突き詰められてしまうと(自然界的に)意味のないことでわーわー騒いでなんとかそれを守ろうと頑張ってるのが人間なのかも…と思ってしまう。とても冷たい物語なんだけど、その冷たさが気持ちいいと感じるような、短編でした。