この世界の片隅に

2017年、映画始めはこの映画でした。とても良い映画始め。


広島から呉に嫁いだ女性すずを中心に、戦争中の生活を細かに描いた作品です。
戦争という非日常の出来事が大局として進行していきながら、日々は穏やかに平凡な俗世のしがらみを交えながら繰り返していきます。可愛らしい絵柄とコミカルな展開で紛わされているけれど、つぶさに見ているとそこはかとない狂気が潜んでいます。ついさっきまで笑っていた人が、次の瞬間には爆弾で吹き飛ばされている。賑やかに食卓を囲んでいた居間に、焼夷弾が降ってくる。戦争をしている世界は、中心だろうと片隅だろうと容赦なく襲ってくる。
すずはのんびりしていて、自分から行動を起こしたり人と争ったりすることはとても苦手な気の優しい女性だけど、この世界に対しては決してそうではないと思うんですよ。世界の手が届きそうもない片隅で、世界とは関係なく幸せに生きること。それが彼女なりの戦い方。
終戦の知らせを聞いて泣き崩れる彼女は愛国者というよりも、途中で勝負を投げ出された怒りのためだったのではないかと思います。


戦争が市民に与えるものはなにもありません。ただ奪うだけです。けれどこの作品の素晴らしいところは、その奪われたもの、喪失が人をつなぐ、という希望を描いているところだと思うんですよね。世界は中心だろうと片隅だろうと残酷に悲劇を振りまくけれど、同じように優しくもある。失われた命は贖うことはできないけれど、失われなかった命はまた、穏やかに日々を繰り返していく。


なんだかあまり上手くまとまらなかったけど、優しい画の中に鋭いものが潜んでいる、そんな映画でした。すごく良かった。